「死ね」「ウザい」を連発する子どもトピックス

投稿:2026年9月30日

以下AERA DEGITALより抜粋

子どもが「死ね!」「ウザい!」を連発 YouTubeのゲーム実況は暴言にどう影響?

■ゲーム中に飛び出す暴言
「クソッ!!」「死ね!」「こいつウザい!」「っざけんなよぉ!」

都内の集合住宅に住むある家庭の何気ない日常に、穏やかではない言葉が飛び交う。言葉の主は小学校低学年の男児たちだ。対戦型のテレビゲームに熱中し、操作がうまくいかなかったり、相手にやられたりすると、大人でも口にするのをためらうような暴言が次々と飛び出す。

周囲の親たちが「汚い言葉遣いはやめなさい!」「もうゲームやらせないよ!」と叱っても、熱中する子どもたちには届かない。なおも暴言が続くと、ある父親がテレビの前に仁王立ちし、子どもたちの視界を遮った。

「それ以上言うと、電源を切ります」

怒気のこもった声に、子どもたちはようやくしょんぼりした。

家庭ではそんな言葉遣いをしていないのに、どこで覚えてくるのか。親たちに聞くと、そろって挙げたのが「YouTubeのゲーム実況動画」だった。小学校低学年の息子を持つ40代女性は苦笑する。

「YouTubeでお気に入りの配信者がいるとかで、ゲーム実況動画をけたけた笑いながら四六時中見ています。動画から聞こえる声は大きくて騒々しい。『ボリュームを下げて』と何度言ったことか。そこで変な言葉を覚えているのなら制限も考えたいですよね」

銃で撃ち合う人気FPSゲームでの対戦の様子を実況するある配信者は、敵にやられるごとに「うぜえぇぇ!」「こいつ絶対殺す!」「クソ野郎!」と感情を抑えきれずに爆発させ、そのたびに「暴言はよくないですよ」とすました顔で話す。コメント欄を見ると、感情を高ぶらせるシーンこそがその配信者の魅力のようだった。

ゲーム実況は、今は主にパソコンや家庭用ゲーム機などのデジタルゲームを遊ぶ様子を配信する生放送、あるいは遊ぶ様子を録画・編集した動画を指す。配信者と一緒に遊んでいるような気分を味わえるものとして人気のコンテンツで、YouTubeにもありとあらゆるゲーム実況動画がアップされている。

■言葉をまねるのは昔から
子どもが映像で聞いた言葉を面白がってまねるのは、YouTubeとともに始まった現象ではない。言語学者で大阪大学名誉教授の金水敏さんによると、テレビ番組の言葉が子どもに与える影響も、以前から繰り返し指摘されてきた。

「『カラスの勝手でしょ』とか、『そんなの関係ねえ』とか、子どもは面白がって口にするものです。影響を与えるメディアが今、テレビからYouTubeなどのプラットフォームに移っているということでしょう」

金水さんの親族の子どもも、普通に話していたかと思うと、突然、会話の調子を変えることがある。「さあ、ここはどこでしょうか!」。何かと思えば、人気ゲーム「マインクラフト」を実況するヒカキンさんの動画のまねだった。親世代になったかつての教え子にその話をすると、「うちも同じです」と返ってきたという。

では、影響を与えるメディアが移っただけなのか。金水さんは、日常的にゲームに触れる子どもにとって、実況動画は非常にのめり込みやすいとみる。家族で囲むテレビと、一人で見ることの多い動画では、視聴環境も異なる。

「家族で囲んでみるテレビとは異なり、一人で動画を見るという行為は配信者と子どもだけで世界が完結されていて、コミュニケーションもない動作です。一方的に画面から流れる言葉をインプットだけしていってしまうというきらいはあるかもしれません」

■実況動画を悪者にできるか
一人で見る動画には、画面から流れる言葉を一方的に取り込みやすい面がある。だからといって、ゲーム実況動画をひとくくりにし、暴言の原因と決めつけることもできない。ゲーム実況文化を研究する跡見学園女子大学講師の根岸貴哉さんは、配信者側の変化を指摘する。

「ゲーム実況というジャンルが出始めた当初こそ、友人同士のノリをそのまま持ち込んだような、パブリックな目を意識しない過激な言動が目立つ動画や生放送も多かったですが、かつてに比べれば、今はむしろ丁寧な動画づくりや放送が心がけられています。それが子ども世代をターゲットとした動画ならなおさら丁寧な戦略を立てているはずです」

デジタルゲームを使った実況形式のコンテンツは、テレビ番組などでも見られた。インターネット上でのゲーム実況動画は2000年代から登場し、当時はスポンサーがつかず、収益化の手段も限られており、むしろ視聴者からは収益化に対する反発も少なからずあった。一般的に、それほど大きな影響力や認知度があるものでもなかったという。

今やゲーム実況は文化として定着し、見て育った世代も成人した。大学の講義では、その広がりを実感している。

「仮に20年前に、学生に対して『ゲーム実況を知っていますか』と尋ねても、おそらく『何それ』という反応が多かったでしょう。今は説明する必要がありません。見たことがない人の挙手を求めても一人も手が挙がらない。それほどに一般化しているのです」

配信者が増え、動画の内容にも幅が生まれた。荒っぽい言葉や破天荒な姿勢で視聴者を引きつけようとする人がいる一方、規制やコンプライアンスへの対応も進み、ハラスメントや差別的な発言など、プラットフォームのガイドラインに反した過激な言動が繰り返されれば、場合によってはチャンネルやアカウントの停止につながることもある。

■家庭で引く言葉の一線
動画によって内容に違いがあるとはいえ、悪影響が疑われるコンテンツから子どもを遠ざけたいのも親心だ。では、新しい文化とどう付き合えばいいのか。金水さんは、大人が受け入れにくい言葉も新しい文化として捉えたうえで、子どもが実際の人間関係で線引きできるようにすることが大切だと考える。

「まずは新たなカルチャーが流れ込んできたのだと咀嚼すること。そして、子どもが社会性を身に着けていく過程で、実際に人と交わるときにきちんと線引きできるかどうかが大事です。家庭の中で、あるいは学校で、言葉について話し合う機会が常にあるというのが理想的だと思います」

流行語や新しい言葉を使うのは、子どもに限らない。「ウザい」「キモい」「やばい」といった言葉は、世代を問わず広く使われている。金水さんは「やばい」の多用には疑問を示す一方、聞き慣れない言葉が独自の役割を果たすこともあるとみる。

「たとえば『キモい』は、通常は差別的に使われますが、一方で大人の男性が若い女性に対して向ける、気分を害するような視線や仕草、発言を一刀両断にする力があります。大人世代が聞き慣れない、あるいは眉をひそめるような言葉であっても、一概に全部だめとは決して言えないと思います。頭ごなしに否定するのではなく、その意味を見直してみるといった柔軟さがあってもいいかもしれません」

脅しにもなり得る暴言と、相手への不快感を端的に示す言葉は同じではない。その言葉は誰を傷つけ、どんな場面では別の役割を果たすのか。ゲームの電源を切る前に、親子で話し合えることがある。

(AERA編集部・秦正理)