逃避としての読書に注意トピックス

投稿:2026年2月6日

〇子どもが勉強以外で学力を高めるなら「読書」が王道! ただし読書を「逃げ」にするとマイナスになることも…

英語、スポーツ、さまざまな習い事など、勉強に加えて、親が子どもに身につけてほしいと思うことはたくさんある。

教育心理学・認知科学者の猪原敬介さんは、「AIで要約してもらったり動画を視聴した方が…」と思うことの方が多く、読書の価値が疑問視される昨今、それでも読書をやる価値があるという。著書『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』(日経BP)から、「勉強以外で学力を高める方法が読書」だということについて一部抜粋・再編集して紹介する。

〇勉強以外で学力を高めるなら?

それでも、「学力を高めたいなら、勉強よりも読書をしなさい」などと言うつもりはありません。学力を高めたいなら、まずは勉強をすべきです。当たり前のことですが、仙台市のデータでも、勉強時間が長いグループのほうが平均偏差値が高くなっています。

学力を高める手段の王道は、勉強すること。これは動きません。しかし、それで勉強ばかりを長時間やれるのであれば、苦労はないのです。本人や保護者がベストを尽くしたとしても、その子がコンスタントに勉強できる時間には個人差があります。スポーツで、どこまでの強度・密度で練習できるかには個人差があることや、健康でいるために必要な睡眠時間に個人差があることと同じです。

そのため、王道である勉強をある程度やった上で、勉強「以外」で学力を高める活動があると、本人も保護者も助かります。勉強以外で学力を高める活動…こちらの王道が、読書ということになるでしょう。むしろ、読書以外に学力を高める活動がありますか、と聞きたくなります。私にはほかに有力候補が思いつきません。

〇勉強が嫌いな子どもにも読書はプラス

勉強が(今のところ)嫌いな子のうち、何割かの子どもは「読書なら好き」のはずです。毎日少しでも勉強をする努力は必要だとして、それにプラスして読書を多めにしてもらえば、学力はそれほどひどいことにはならない可能性が高いのです。例えば、毎日30分勉強するのも苦痛な小学生や中学生は、まずは学校で出された宿題を完了させることだけを目標にしてもいいと思います。その上で、本人が嫌がる塾に行かせるくらいなら、子どもが好きな本を読んでもらうほうがよさそうです。そうこうしているうちに、勉強にも興味が出てきて、少しずつ勉強を嫌がらなくなるということも考えられます。

1日あたりの読書時間の目安は、長くても1〜2時間までにしておき、それ以外の活動にも幅広く興味を持ってもらえればベスト……ですが、そこは本人や家庭の事情で調整すべきだと思います。

このように、「勉強」「読書」「その他の活動」でバランスを取ることでうまくいく子どもも、必ずいるはずです。

〇集中を妨げる状況・環境を整える

そのほか、考えておく必要があるのは、そもそも「勉強が嫌い」というのが、本人の生まれながらの特性というよりも、勉強に集中することを妨げるような「状況・環境」によるものではないか、という点です。

例えば、学校で友人関係がうまくいっていなかったり、両親の不仲がストレスになっていたり、といった「勉強どころではない状況」はないでしょうか。あるいは、子ども用の机がなかったり、あっても雑然と散らかっていたり、子どもの勉強に親が関心を持たず、少しも勉強を見てあげなかったりといった「勉強する気になれない環境」になってはいないでしょうか。こうした場合には、勉強と同じく読書もうまく習慣化できない可能性が高く、読書の効果も発揮されにくいでしょう。

👉あるいは、「逃避」としての読書にどっぷりとハマってしまう、という真逆の結果となることもあります。「逃避」は、「読書をする動機」のうちの重要なものとして研究されており(※)、ストレスに対処する方法としても、短期的には必ずしも悪いものではありません。ただし、長期的にはストレスの原因そのものに対処するほうが望ましいのは言うまでもありませんし、「勉強をせずに読書を長時間し続ける」ことは、学力には明確にマイナスです。

やはり、「勉強」や「読書」の前に、「状況・環境」を整える必要があると思います。

〇読書以外の息抜きも大切に

さて、ここまでは「勉強が嫌い」というケースでした。

一方、子ども本人に勉強のやる気があり、保護者もそれを応援しているケースはどうでしょうか。高校・大学受験はもちろん、中学受験を目指す小学生もいると思います。子どもはすでに毎日長時間の勉強をしています。さすがに勉強ばかりでは飽きてしまい、集中力を欠くようになってしまうかもしれません。

もし子どもが読書好きなのであれば、息抜きを兼ねて読書が楽しめれば理想的です。「読書は学力を高める」という知見が子どもと保護者で共有されていれば、互いに罪悪感なく息抜きできるでしょう。ただし、あくまで「息抜き」であって、長時間の読書は学力向上という面ではお勧めできません。

小学生なら1日30分〜1時間程度までに、中学生なら10〜30分程度をとっかかりにそこから調整すべきです。これは仙台市のデータや、全国学力テストからの目安です。ある程度は「勉強」や「読書」とはまったく無関係の「その他の活動」できちんとリラックスしたほうがよいでしょうし、勉強で疲れた頭を癒やすためにも睡眠時間は長めにとったほうがよいでしょう。

このように、学力向上においても「読書はすればするほどよい」というものでもありません。読む人の特性・環境・状況に合わせて調整することで、本人と保護者の目指す目標を達成する力になってくれるでしょう。

(※)Greaney, V., & Neuman, S. B.(1990). The functions of reading: A cross-cultural

perspective. Reading Research Quarterly, 25, 172-195.

猪原敬介

教育心理学・認知科学者。著書に『読書効果の科学 読書の“ 穏やかな” 力を活かす3原則』『読書と言語能力 言葉の「用法」がもたらす学習効果』(いずれも京都大学学術出版会)などがある。